クラヴィコードと私の出会い
クラヴィコード という楽器を初めて聴いたのは、今から32年前の私が高校生の時、兵庫県 神戸の小さなサロンで、鈴木雅明氏の演奏による、バッハの「2声のインヴェンション と 3声のシンフォニア」でした。高校の同級生と聴きました。
初めて聴くクラヴィコードは、思っていたより小型の楽器でした。出る音は、とても繊細で、おどろきました。指の上下のタッチだけでなく、指の微妙な動きも、鍵盤から、音を発生させる場所へと、直接つながっていて、反映されるからです。
演奏会後、氏と話す機会があり、楽器も少し触らせていただきましたが、「一音を出すのが、難しい楽器だなあ」という感想をもちました。
月日は流れる中、クラヴィコードの演奏CDが、世に出ることは、ほとんどなく、
今回、70歳になるアンドラーシュ・シフが、この楽器に取り組みCDを出しました。
シフについて
シフは、1953年ハンガリー、ブタペスト生まれのピアニストです。
これまで、私のシフに対しての印象は、作品の本質に内省的にせまり、音楽には正攻法で取り組む、おとなしい人柄のイメージでした。ところが、最近購入した「最新版 クラシック現代の巨匠たち」(音楽の友社)のシフの紹介ページ(寺西 基之 氏執筆)を読んで、
シフのその一直線な気質が、探求心のあまり、(一例で)ハイドンの演奏で、リヒテルや、グールドの演奏を非難していることを知り、意外でびっくりしました。
シフのバッハ演奏について
シフのピアノ演奏は、真面目で清廉に音楽に取り組む姿勢が、音楽にも表れていて、私は愛聴していました。
「クラヴィコード」で弾くバッハ作品集は、どのような響きになるのだろうかと期待が半分。一方、不安要素もありました。クラヴィコードの音は、生演奏では、典雅で、まぼろしのような空間さえも創りあげる楽器ですが、録音機器で音を採取できているのかという考えも持っていたからです。
聴いてみての感想
この曲は、深夜、こっそり自分だけで聴くのが一番良い聴き方だと思いました。ピアノほどの強弱の振幅はなく、周囲に音が届かない、また、深夜のシーンとした静寂の中でこそ、録音された音が映えるからです。
入っている曲
2声のインヴェンション と 3声のシンフォニア、カプリッチョ「最愛の兄の旅立ちに寄せて」、4つのデュエット、音楽の捧げものより3声のリチェルカーレー、半音階的幻想曲とフーガです。
シフのクラヴィコード演奏の特徴
一例として、インヴェンションの第1曲目、過去、デッカレーベルに録音したピアノ版では、ある意味、真面目に弾き、装飾音がなかったのですが、このクラヴィコードによる演奏では、グールド(非難していたのに、装飾がすごく似ています)のように自由に装飾しています。
本CDの収録曲を通して、表現方法や解釈の探求をし続ける、現在のシフの姿を聴くことが出来ました。
眠ることの出来ない深夜に、ゴルドベルク変奏曲では、曲調が、闊達すぎて、目が覚めてしまいますが、一方、このCDは、クラヴィコード楽器の特性がひきだされ、ほの暗い雰囲気を醸し出しており、眠れぬ夜のなぐさみに良いと思います。
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